「お兄ちゃん、勉強しないで高校に入れる方法って無い?」

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小学校のときから、テストは大抵50点以下だったので「私って頭悪いかも」と思っていたんですけど、中学で順位が出るようになって、「本当に頭悪いんだ…」と自信から確信に変わりました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786378611
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だから「これからはスポーツに力を入れよう」と、部活(バドミントン)に入ったんですけど初日に「1年は学校の周りを3周ランニングね」とか言われて、何とか走り終えると、あとは体育館の中で、先輩の試合を立ってみてるという感じだったので、「やってらんね」と1週間で行かなくなりました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786379580
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私はクラスでカズちゃんという子と仲が良くて、バド部も一緒に入ったんですけど、彼女は真面目だったから、私が行かなくなっても、ちゃんと行ってたようです。カズちゃんに「ミヤコも来なよ」って誘われるたびに「生理だから」と断っていたので、当時の私は1か月のうち20日以上は生理でした。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786382890
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カズちゃんは真面目で性格も良い上に、勉強も良くできて、5教科で470点とか取ったりしていました。最初のテストで私は臆面もなく「あたし290番だった。カズちゃんどれくらい?」と聞きました。するとカズちゃんは申し訳無さそうに、ピースをしてきました。だから私もピースをしました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786384740
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「ミヤコごめん、あたし2番だった」 カズちゃんの言葉がすぐには頭に入ってきませんでした。カズちゃんは2番…。それをゆっくりと頭に染み込ませると、私はWピースでこう叫びました。「すごい!カズちゃん、頭良かったんだ!本当すごいよ!」 カズちゃんは照れくさそうに笑ってくれました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786388769
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カズちゃんに勉強の秘訣を聞いたことがあります。「う〜ん、ちゃんと授業を聞いて、ノートを取るくらいかなあ。大体テストって授業でやってないことは出ないし」「ええ、面倒くさい」 そしたら逆に聞かれました。「じゃあミヤコは授業中、何やっているの?いつもノートに何か書いているけど」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786390886
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「すごろく」「え?なに、すご何?」 私はもう一度大きな声でゆっくりと言いました。「すーごーろーく!」 するとカズちゃんは「ふふ、ミヤコらしいね」と笑ってくれました。そして「今度そのすごろく見せてね」と言ってくれました。私はアホの子みたいに「うん!」と大きく頷きました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786393535
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当時の私はなぜ勉強するのかよく分かりませんでした。別に赤点を取っても順位が低くても恥ずかしくもなかったし何も困ることはありませんでした。カズちゃんのアドバイスを実践すれば多少は成績も上がったかもしれませんが、そうする必要をまったく感じなかったのです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/786394913
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勉強をまったくしない中学生活を送っていた私にも、受験というイベントはしっかりやってきました。中3の三者面談のとき先生はこう言いました。「杜野さんの成績ですと、正直どこも厳しいですねえ」 私は「やっぱりね」と思いましたが、お母さんはそうではなかったみたいです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/787576147
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うちの両親は私の成績にはあまり関心がなくて、私のオツムについては「良くはないだろうけど、まあ、そこまで酷くはないだろう」と甘く見積もっていたようです。それがこのていたらく。顔面蒼白のお母さんは先生の前で「ミヤコ、あんた頭悪いの?」と聞いてきました。私は「残念ながら」と答えました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/787577667
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お母さんが心配したのは、私もヒロくん(2番目のお兄ちゃん)と同じような障害があるのではないか、ということです。だから私は「違うよ。ぜんぜん違うよ。私はただ勉強が嫌いで、怠け者なだけだよ」と努めて明るく答えました。するとお母さんはますます暗い表情になり、深いため息をつきました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/787638559
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だけどお母さんもお父さんも、私に「勉強しなさい」とは言いませんでした。でも内心は違ったと思います。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788167318
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当時の我が家はヒロくんのこともあって、色々と問題を抱えていた時期でした。そこに新たな心配の種をまくのは、私としても心苦しい思いがしました。だから私は“自分のため”ではなく、“お父さんとお母さんのため”に、高校に行こうと決意をしたのです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788168951
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とは言え、これまで勉強というものをしてこなかった人間が、いきなり受験勉強なんてできるはずもなく、私は結局何もしないまま、中3の夏休みを迎えてしまいました。授業中に書いたすごろくノートは3冊に及んでいました。アホか。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788170383
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そこで容姿端麗で頭脳明晰な友人のカズちゃんに泣きついたところ、カズちゃんは「じゃあ一緒に勉強しよう」と言ってくれました。私は「カズちゃんという家庭教師がいれば100人力!受験なんて楽勝だい!」と考えていたのですが、それは大きな誤算でした。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788171681
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仙台の高校受験では、第1志望が公立で、すべり止めが私立というのが一般的ですが、公立の場合、試験は5教科になります。私はそれをカズちゃんから聞かされ、愕然としてしまいました。「無理!今から5教科も勉強するの?マジ無理」「でもミヤコは公立が第1志望でしょ」「いやあ、どうだろう」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788173025
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当時の私は高校受験について何も知りませんでした。公立と私立の違いも、受験科目の違いも、何も知りませんでした。「ねえ私立は?何教科?」 するとカズちゃんは「学校によって違うから何とも言えないけど、少なくとも3教科はあるんじゃないかな」と答えました。私は目の前が一気に暗くなりました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788174596
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要するに私はこの期に及んで、勉強せずに高校に入ろうとしていたのです。カズちゃんは呆れ顔で「ミヤコ、まずは志望校を決めてからにしよ。学校によって傾向と対策も違うし、ね」と言いました。私は土気色の表情でこくこくと頷くと、その日は勉強せずにカズちゃんの家を後にしました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788175391
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私は1番上のお兄ちゃんに相談することにしました。当時お兄ちゃんは就職したばかりで、まだ私たちと一緒に住んでいたのです。お兄ちゃんは私とは違い、高校は有数の進学校に進み、大学も地元の国立大に進んで、今は役所勤めをしております。でも勉強の相談は今まで一度もしたことがありませんでした。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788183216
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私は単刀直入に切り出しました。「お兄ちゃん、勉強しないで高校に入れる方法って無い?」 するとお兄ちゃんはしばらく思案した後、どこかに電話をかけ始めました。そして電話が終わるとお兄ちゃんはこう言いました。「あるよ」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788184755
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「大学の先輩が中学教師でさ、色々と聞いてみたんだ。で、狙いどころは私立の推薦入試だろうと」 そして幾つかの学校名が書かれたメモを見せてくれました。「このあたりの高校なら、評定平均をクリアすれば、小論文と面接だけになる」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788185551
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「ミヤコ、今までの通知表を見せてくれ」 私は机の中に突っ込んでた通知表を差し出しました。お兄ちゃんはそれを神妙な表情で眺めながら、こんなことを呟いていました。「かなりひどいな。でもまあ何とか足りるか…あとは校内選抜がどうなっているかだけど」 またお兄ちゃんは電話を取りました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788187369
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電話を終えたお兄ちゃんはこう言いました。「よーし決まりだ。これからミヤコは小論文と面接の対策だけをすればいい。5教科やるよりずっと楽だろう」 やっぱりお兄ちゃんはすごいと改めて私は思いました。そしてお父さんとお母さんにも、私立の推薦入試で行くことを告げました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788191273
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私立の場合、公立に比べると学費が格段に増すので、心配していたのですが、お父さんは「気にするな」と言ってくれました。私はお父さんとお母さんと、そしてお兄ちゃんに「ありがとう」と頭を下げました。するとお兄ちゃんは「礼はまだ早いぞ。受験はこれからなんだから」と言いました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788192447
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その日からお兄ちゃんの小論文講座が始まりました。ちなみにお兄ちゃんは家庭教師や塾講師の経験もありませんし、教員免許も持っていません。その点で私はちょっと心配でしたが、自分でやるよりはマシだろうと、お兄ちゃんの教えに従うことにしました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788193350
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「ミヤコは今まで作文は書いたことあるだろう」 私は頷きました。「小論文はどうだ?」 私は首を捻りました。「じゃあ質問を変えよう。作文と小論文の違いって分かるか?」 私にそんなこと分かるわけありません。私は頭を思い切りぶんぶん横に振りました。「じゃあそこから説明を始めるか」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788194302
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「まず作文ってのは何を書いても良い。自由だ。感じたこと、考えたこと、あったこと、何を書いても良い」 それなら書けそうだなと思いながら、私は頷きました。「一方、小論文は何を書いても良いってわけじゃない」 私は思わず尋ねました。「じゃあ何を書くわけ?」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788196149
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するとお兄ちゃんはもったいぶってこう答えました。「賛成か反対か、だ」 そしてこう続けました。「つまり、ある問題に対して、賛成なのか、反対なのかを論じさせるのが、小論文というわけだ」 たぶん分かる人には分かるんでしょうけど、当時の私にはいまいちよく分かりませんでした。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788197127
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「全然分からないって顔だな。じゃあ具体例を出して話すか」 そう言うとお兄ちゃんはルーズリーフに何やら書き始めました。「これは『登校拒否児が年々増加していることを示すグラフ』だ。そしてこれが問題文。『次のグラフを見てあなたの意見を論ぜよ』」 私はますますわけが分からなくなりました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788207181
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「グラフになっているから分かりにくいけど、要するに問題文の趣旨は『登校拒否は是か非か』ということだ。だからミヤコは登校拒否について、賛成か反対かを述べればいいんだ。な?簡単だろ」 そんな風に事も無げに語るお兄ちゃんが遠い存在に思えました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788207937
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「ミヤコは登校拒否についてどう思う。賛成か反対か?」 私は正直に答えました。「そんなこと考えたこと無いよ。でも学校の受験なんだから、登校拒否は反対って書いた方がいいのかなあ」 するとお兄ちゃんは「それが一番多い勘違いだな」と言いました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788208591
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「結論はどちらだっていいんだ。小論文に正解は無い。重要なのはその結論に至ったプロセスを論理的に示せているかどうかなんだよ。まあ論じやすい結論ってのはあるだろうけどさ」 正直私はもうこの講義に飽きていました。私は黙って赤ベコのように頷いていました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788209419
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それからはお兄ちゃんの独演会でした。「登校拒否賛成派でいくならこんな感じかな。『まず、グラフは登校拒否児童が年々増加していることを示している。登校拒否は、かねてより社会問題とされており、一般的に否定的に捉えられてきたが、果たしてそのような取り扱いは正しいのだろうか』」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788220153
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「『確かに、学校は社会生活の基本であり、規律や秩序を学び、教育を受ける重要な場である。憲法で教育の義務が定められているのも、学校の重要性を鑑みてのことであろう』」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788220291
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「『しかしながら、現在はいじめや受験戦争など、学校生活も大人と変わらずストレスに満ちている。そのため無理に学校に通い続け、ストレスを溜め込んで体調を崩したり、自殺にまで追い込まれる児童も少なくない』」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788220365
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「『そういった現状を踏まえると、登校拒否という逃避の手段を与えることは、最悪の事態を防ぐという意味で一定のメリットがあると私は考えている』」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788220424
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「『もちろん、登校拒否はあくまでも暫定的な非常手段であるから、周りの大人たちは児童に対して、転校やフリースクールといった選択肢を示し、登校拒否の期間が長引かないよう手を差し伸べるべきであろう』…とまあこんな感じかな」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788220606
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「そんなの私書けないよ」 私は泣きそうな顔で訴えました。「大丈夫だって。流れを覚えてそれに当てはめていけばいいんだよ。『導入→問題提起→反対説の紹介→反対説への批判→自説の紹介→自説の補強→結論』ってな具合にさ」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788222010
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もう私の頭の中はパンパンに膨れて、何も入りそうにありませんでした。私は「うごぉあ!」と叫ぶと、ベッドにダイブして枕に顔をうずめました。そして全身を痙攣させながら、一気にベッドから起き上がると、お兄ちゃんに向かって「うがうが!」と熊のポーズで威嚇しました。私は壊れてしまったのです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788224533
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するとお兄ちゃんは「ミヤコは元気だなあ、ほらコンソメパンチ食うか」と言ったので、私は袋ごと奪い取り、むっしゃむっしゃとコンソメパンチを食べ始めました。体内に吸収されたコンソメ成分は私の脳の興奮を鎮めていきました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788225234
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ふと私は気づきました。「お兄ちゃん、面接はどうすればいい?」 お兄ちゃんはしばらく思案した後、こう答えました。「ミヤコが考えていることと、逆のことを答えればOKだ」 さすがお兄ちゃん、妹のことは何でもお見通しなのです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788225909
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そのときはちょうど夏休みだったので、読書感想文の書き方も聞いてみました。「読書感想文ってのは、本の感想を書くもんじゃない。自分のことを書くもんだ」 そう言ってお兄ちゃんは自分の部屋に引き上げていきました。私はお兄ちゃんの背中に向かって「ありがとう」と言いました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788227282
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当時、私は読書感想文のために、武者小路実篤さんの「友情」という本を買っていました。選んだ理由は薄くて安かったからです。でも夏休み後半になっても1ページも読んでいませんでした。たぶんもう読まないだろうなあという予感がありました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788228406
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だから私は本を読まずに読書感想文を書くことにしました。お兄ちゃんの「自分のことを書くのが読書感想文」という言葉をたよりに、私は原稿用紙に向かいました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788229232
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書き出しはこんな感じだったと思います。『私がこの本を手に取ったのは、果たして偶然だったのだろうか』 そんなの知るかって書き出しですけど、その後も私の友情観など自分のことばかり並べ立て、本の内容に一切触れないまま、最後まで書き切りました。その感想文はなぜか校内代表に選ばれました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788231497
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あまり内容に触れないのもアレだなと思って「主人公も私と同じ気持ちだったのではないだろうか」などの適当フレーズを散りばめたのが良かったのかもしれません。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788232120
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で、季節は過ぎて高校の推薦入試を迎えたわけですけど、小論文の問題は、漫画の内容について論じるものでした。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788234091
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漫画の内容は、正義感の強い主人公が、いじめられた子をかばったせいで、自分がいじめられるようになり、しかも最初にいじめられていた子までが、自分をいじめるようになったという話でした。テーマはいじめなんでしょうけど、問題提起の仕方を工夫しないと、変な方向に行きそうだなと感じました。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788234701
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そこで私は「いじめを見過ごすことの是非」を問題提起にして、論じていくことにしました。流れとしてはこんな感じだったと思います。「確かにいじめは良くないので止めるべき→しかし自分が被害者になる可能性→その場で見過ごすのは仕方ない→ただし別手段による解決を図る(教師に訴えるなど)」 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788236484
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で、小論文の後は面接。これはお兄ちゃんの言うとおり、自分の考えていることと、逆のことを答えていたら上手くいきました。つまり私は、明朗快活で前向きな女の子を演じたわけです。ありえねー。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788237141
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そんなこんなで、私はどうにか高校生になることができました。そして入学祝でNECのノートパソコン(ラビ)を買ってもらいました。でもこのパソコンが、私をインターネットの世界に引きずり込み、一度きりの青春を暗黒に染めようとは、そのときの私は知る由もなかったのです。 http://twitter.com/sports_bra/statuses/788237976